「英語と専門知識を身につけて」本学名誉教授 鈴木章先生【北大人に聞く 第5回】

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本学卒業生にインタビューを行う本紙連載「北大人に聞く」。今回は2010年にノーベル化学賞を受賞した鈴木章名誉教授に話を聞いた。

鈴木名誉教授の経歴と業績

鈴木名誉教授は1930年に北海道で生まれた。本学で理学博士号を修め、研究者としての道を歩み始める。米国に渡って研究を行ったほか、かつては本学で30年あまり教鞭をとっていた。

研究の中でも、ノーベル化学賞受賞につながったのが「鈴木・宮浦カップリング」。これは有機物同士を結合させるための化学反応で、液晶や医薬・農薬など、我々の生活に欠かせない様々な製品を作り出すことができる。従来の反応と比べて好条件かつ幅広い用途を持つことから、様々な分野で用いられている。

<インタビューここから>

北大で研究者を志す

―北大に入学したきっかけは?

北大は当時、道内で唯一の総合大学だった。僕が大学に入ったのは、もう今から70年も昔。生まれも北海道で、総合大学に入るには北大しかなかった。

―研究者として本学の博士を修めたわけですが、その道に進もうと思ったのはなぜ?

僕は研究が好きだった。教育(に関わる)という面もあるが、研究が好きで理学部に入った。

理科系では化学を勉強したかった。化学は会社に勤めることもできたし、そうした人もたくさんいたけど、理学部全体では研究や教育の道に進む人が多かった。化学といってもたくさんあるけど、その中でも有機化学が勉強したかった。有機化学は「もの」に関係する学問。大部分の化合物は炭素と炭素が結合した有機物で、それは我々の生活に必要なものであり、また人間の力で作り出せる。そこに興味をひかれた。

鈴木名誉教授の研究

炭素同士の結合で最も使われる反応は有機の金属化合物を用いたもの。有名なのはマグネシウム化合物を用いたグリニア反応。しかしながら、この反応に用いるマグネシウム化合物は水などと容易に反応し分解してしまう。そういったネガティブな面があった。その代わりとして考えられるのが有機ホウ素化合物。

僕は北大の助教授になった後、米国のH.C.Brown先生のところに留学し、有機ホウ素化合物の合成に関する研究(ハイドロボレーション)を学んだ。

有機ホウ素化合物は安定で、マグネシウム化合物のようには反応しない。ところが、そこに塩基を加えると反応が容易に進むということを見つけた。これが僕の研究で、農薬や医薬や、工業化学にも使えるという非常に有用な反応。この結果がノーベル賞につながった。

―子供のころから化学に興味があった?

中学校に入ると、数学や物理や化学、地学なんかを習う。その中でも化学は面白いなと思った。さっきも言ったけど、人間の力で新しいものを作ることができるから。たとえば生物学では動物や植物がものを作る。物理学は新しい化合物を作るようなことはあまりしない。新しいものを作るのは化学。その中でも有機化合物を作るのは有機化学。そういうことで有機化学をやりたいと思った。

―「もの」を作るというところに惹かれたと。

紙でもペットボトルでも、こういったものは、昔は無かったわけだ。いずれも炭素からできている化合物。有機合成は我々の生活に非常に有用だ、ということから有機化学を学ぼうと思った。

鈴木名誉教授の学生時代

―少し話題は変わりますが、学生時代部活などはやっていましたか?

部活っていうのは、我々のときはあるにはあったけど、僕はあまり興味が無かった。たとえば本を読んだりするのは好きだったが。

―部活というよりは、本を読んだり、勉強をしたりしていた?

そうだね。

―よく訪れていた場所などは?

喫茶店かなんかかい。

―何でも。

北大近くは我々のときから喫茶店はあった。そういう所にももちろん行ったけども、北大の中では・・・なんだろうな。演劇とかそういったのも行かなかったし、自分で言論を戦わせるのもあまりしなかった。

でも歴史は割に好きだった。学問じゃなく趣味で。歴史小説とかね。

―おすすめの歴史小説はありますか?

「三国志」とか「諸葛孔明」とか。今も読んでる。すぐ寝られないからね。寝るときに。

今と昔の違い

―当時の北大と今の北大と、変わりましたか?

今の北大は、僕は詳しくはわからないけど、僕の感じではそんなに変わらないと思う。

我々が学生のころは、当時の大人から「今の学生は~」などと色々言われることがあったんだけど。でも僕は今の若い人たちにはそういったことは絶対に言わない。君、今いくつ?

―21歳になります。

僕が今88歳だから、70ぐらいしか違わない。たとえば1000年のなかで70年なんか短い期間。君たちの世代と我々の世代は長いタイムスケールで見ればほんの近い時代の変化に過ぎない。そんな近い世代同士で、考え方がそんなに大きく違うはずが無い。少しはあるかも知れないけど。本質的な考え方に違いは無い。だから年の差は大きく考えない。

海外へ行くこと

―鈴木先生は海外での研究のご経験があるということで、海外に行くメリットだとか、どういった時期に行くのがよいか、聞かせていただきたい。

それはケースバイケースで、しかも海外へ行くのは容易ではない。でもやっぱり、若いうちに行ったほうがいい。日本だけでも立派に成長するからそれはそれでいいんだけども、若いときに外人の考え方を知る、ということは非常にプラスになると僕は思う。歳をとってからよりもはるかにいい。考え方が柔軟で、色々なことを考えられるからね。外国とはどういうもので、外人がどういうことを考えているか、経験して実際の状況を知ること。これは僕の経験から言ってもそう。そのためにはまず言葉がわからないといけない。

僕、もともと外国はあまり好きじゃなかったけど、札幌の丸善でBrown先生のハイドロボレーションに関する本を買って、読んで「面白いな」と思って先生のところに行った。

―最近は北大も海外に行くことを推奨していますね。

それは当然だと思う。今は昔よりはるかにいい。昔は海外に行くのは容易ではなかった。今の状況は非常にいい。

―そういったものは利用していって、若いうちに海外に行ったほうがよいと。

その方がいいと思うよ。

学生へのメッセージ

―まず、在学生へ向けたメッセージをお願いします。

これは誰でも言うことかも知れないけど、「勉強をする」ということ。特に若いときにはまず語学。少なくとも英語は国際語として大事。まず英語をちゃんと勉強する。言葉が通じないと外国人と付き合いようがないしね。研究を論文にするときも日本語で書いたのでは駄目なんだな。インターナショナルでは日本語の威力は無い。英語が重要だと強調するのはそういうこと。

でも英語だけではだめなので、自分のベースとする、たとえば僕の場合化学だけど、自分の専門をちゃんと学ぶ。そして若いときに外国に行く機会を作るというのが大事だと思うね。

―新入生に向けては。

新入生に向けても同じだね。せっかく北大に入ったんだから、とにかく勉強する。勉強も色々あるけど、英語も大事。そして、将来何になるかは別にして、「こういうことをやりたい」と決めたらしっかり努力してその道に進むように頑張る。どの道に進むかは、好き嫌いが大事なんだな。自分の好きな道を見つけて一生懸命勉強してほしい。

―たとえば、本を読むことも自分の好きを見つけるためには大事と。

その通り。本を読まなきゃ駄目だね。自分の専門だけでなくて、色んな知識を覚えるために。

(経歴および業績については本学と本学工学部のホームページを参考)

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