歯学が市民と繋がる講義~痛みのない親知らず、放置が得策?~

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北大祭には北海道大学を構成する学部が集まり、市民に向けて開講される授業がある。その名も公開講義。前年は4学部のみの開講であったのが今年の第67回北大祭では全12学部すべての教授が集結し、各教授が専門とする領域についての講義を行った。3日目の午前中に枠を用意された歯学部の講義は“親知らず”の処置についてであった。

北大には国立大学で最も多い数の学部があり、その中には札幌農学校に起源をもつ農学部や広大なキャンパスで自然・動物と関わる獣医学部、函館キャンパスで大学所有の船による実習ができる水産学部など専門性の高い学部が含まれる。また北大の授業には北海道という土地の歴史や産業に密着した内容のカリキュラムも多い。今回の講義ではその縮小版として、日曜日の講義であったような文学部のアイヌ研究や、水産学部で話された魚の泳ぎに関わる物理学などがある。

会場は高等教育推進機構のN302教室。階段状の教室で、講義の参加者は北大の学生のように座席に座り教授の話を聞いた。題名にもあるように今回の題材は親知らずについてであったため参加者の年齢層は児童から高齢の方まで多様であった。これほど様々な人が参加していたのは、高校生は親知らずがあるかどうかが判明しだす時期であり、大人は放置していた親知らずが痛み出す時期になっているためかもしれない。

宮本教授の講義の様子

親知らずは現代人特有の悩みだ。長い人類史の中で食生活の変化につれて顎が小さくなったことによる。人によって痛むかどうかは異なり、隣の歯に向かって正常でない方向に生えていくと顎に痛みが現れるため、親知らずが大きく成長しない人や、周りの歯を圧迫しないときには特別な処置をしないことが多い。記者自身も親知らずがあることはわかっているものの、いまだ生活に支障が出るような問題はないため歯医者にかかっていない。

今回の講義で宮本教授は「親知らずは年を取って大人になってから姿を現す場合も多い。痛くないからと言って、放置するのはむしろ合併症を誘発する可能性が高まり、不利益になる。歯を抜く手術も容易なので、生活への支障が少ない学生のうちに見つかっているものは抜いたほうが長期的に見て得策だ。」と話していた。

今日の講義に参加した一般来場者の海老子さんは教授の話から、「歯列矯正を行っている息子の親知らずを抜くかどうか迷っていたが、今日の話で治療のリスクと今後の利益の双方をよく理解できた。文化祭で行われた講義ではあるが、役に立つ知識を得られた。」と話した。また30代の方は教授の話した抜歯によって起こりうる合併症について「体が衰え、治療に対する持久力が失われることを考えると若いうちに親知らずを抜いたほうが良いと思う。周りにも抜くことを強く勧めたい。」と話していた。

午前中一番という来場者も少ない時間であったが市民の生活に直接かかわるテーマであったため多くの人が教室に集まった。普段は北大生にのみ行われる授業であるが、学外の方へ公開することで北大の取り組みを地域の住民と共有し、今後の研究・教育活動を円滑にすることができたのではないだろうか。

(取材・執筆・撮影:吉村)