【特集】誰がために研究室はある?——文学部 研究室定員の導入延期

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学生中心に想定以上の反発 通達時期などが争点

9月30日、北大文学部は来年度の研究室配属に定員制を原則導入しないと発表した。定員制を巡っては、2026年4月の導入が今年7月に通達されたことに対し学生が署名運動などを通して反発。北大新聞の調査では、文学部教員の約6割が導入に賛成する一方、過半数が「突然の通達に関しては容認できない」と回答した。1年生向け説明会では教務委員長が謝罪したが、2027年度から全研究室で定員制を導入する姿勢は崩さず、対立は消えていない。

「動揺招いた」教務委員長が謝罪

30日の文学部履修コース説明会では、定員制導入延期が発表された。2026年度は導入が撤回されたものの、27年以降は全研究室に定員を設ける見込みだ(実施されれば1994年度以来)。また一部研究室は26年度から独自に定員を定める。

発端は7月16日の通達だった。「研究室によって配属学生数が大きく異なり、担当教員が個々の学生に対して細やかな教育研究指導を行うことができない研究室が出てきたため、今年度より各研究室に定員を設けることになりました(写真1・一部引用)」。1年生には動揺が広がり、SNS上では「入学時の説明と違う」「なぜ今言い出すのか」と物議を醸した。2年前期に研究室まで決定される文学部では、定員を設けGPAなどにより選抜を行う他学部と異なり配属希望が必ず叶う制度が学生に評価されてきた背景がある。


方針転換を示す突然の通達に対し学生は、文学部教務への問い合わせフォームでの抗議・内容証明郵便での質問のほか、ウェブ上での反対署名運動を開始。2日間で650筆以上が確認された。署名を始めた文学部1年の加藤優季さんは「学内外問わず多くの方に署名や応援の言葉をいただき、非常に嬉しい」と、説明会を求める学生らと活動する。北大教職員組合もHPやSNSで署名を呼びかけた。

こうした動きを受け文学部教務は7月30日、学内教育情報システム「ELMS」上で川端康弘学部長・谷本晃久教務委員長の連名で書面を発表。年度途中での通達が混乱を招き学生に不安を与えた、として謝罪し経緯を説明した(写真2)。だが加藤さんらの「文学部学生有志」(以下学生有志)は翌31日に「教育の質の保証には賛同する一方で通達時期など複数の点に問題がある」との見解を示し、8月12日までに集まった約1400筆の署名と共に「定員制設置の延期」の要望書を提出した。

 さらに学生有志は、制度変更の影響を受ける1年生のみを対象に署名106筆を集め提出。対応次第で記者会見や法人文書開示請求も辞さないとした。川端・谷本両氏は署名を「強い懸念と真摯な思いの表れ」とし、9月5日の教務委員会で来年度導入の方針を撤回。説明会では頭を下げたが、定員制自体の撤回には至らず依然、対立は残る。

2026年度の定員制導入は原則撤回となったが、研究室やGPAの制度・通達の時期・決定過程について議論と反発が続き。未だ合意形成や相互理解に至らない点がある。北大新聞では問題の混同を避けるため、最初の通達直後から次の3つを論点に調査を行った。

①学生からすると、制度変更が突如提案・施行された様に感じられる
②制度変更の決定から通知・施行までの期間が短い
③配属にGPAを用いることが年度途中に通達された

1点目の問題は、学生にとって本件の通達が全く事前に想定できない事態だったことだ。大学教育における方針・制度変更は、年度初めなどに通達されることが多く、入試制度・成績評価方法の変更などは通例に従っている。だが本件は4月に特段の通達が無かった。文学部教務が研究室間の人数の偏りを問題視していることや制度変更を検討していることを学生は想定できず、7月半ばの通達が「青天の霹靂」であった。

これに関連して、制度変更の決定から通達・施行までの期間が短いことが2点目の問題だ。学生有志の請求に基づき9月末に開示された過去の教務委員会報告から、定員制の提案は昨年9月頭で、10月 に教員にアンケートを実施、今年3月以後も継続して議論が行われたことが判明している。ただ定員制関連の事項が教務委員会(拡大)で承認されたのは6月27日であり、学生への通達はわずか19日後であった。文学部長と教務委員長は7月30日の書面で「教育の質の保証のためには、教育環境の改善を急ぐ必要があるとの判断により、次年度の進級者からの導入を決め、可能な限り早くみなさんに通知することとした」としているが、事情を明かされていない学生からすれば、急に配属制度を根本から変えられた様に感じるのも無理はない。

3点目の問題が「研究室配属にGPAを用いる」と年度途中に通達されたことだ。GPAは各授業の成績を数値化した「GP」の平均で、北大では総合入試入学者の学部決定や他学部での研究室配属にも使用される一般的な指標である。ただ本件の通達が行われた7月半ばには、既に一部の試験やレポート提出が終わって成績が確定し始めていた。文学部は「希望する研究室に必ず配属される」と長年謳ってきただけに、年度途中に掌を返す通達となったことが問題視されていた。