北大教授監修:易で天命を問いませんか? 文系祭に異色の体験『中国文化論研究室の占い屋さん』

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第67回北大祭の1イベントとして開催される「文系祭」。人文社会研究棟を中心に行われる、今年で4回目となる祭である。

例年、映画研究会による映画上映やエスペラント研究会による古本販売などが行われるが、今年は一風変わった企画が登場した。その名も「中国文化論研究室の占い屋さん」。易やおみくじなどの占いを中心に、研究に関する展示や雑誌の販売を行う。去年から一転、どうして占いをすることにしたのか。参加メンバーの思いを探る。


会場であるW102講義室に入ると、中国関連の品々が並んでいた。並べられているのは教授や学生の持ち寄った「中国らしい品々」。私物でこれだけに揃うことに、中国文化への深い関心がうかがえる。

中国文化論研究室が行う占いは、易と特製のおみくじだ。今回、展示の代表者を務めた小川はるかさん(文学部4年)によると、易とは中国で古くから行われてきた伝統的な占い方法で、筮竹(ぜいちく)と呼ばれる50本の棒を用いるという。中国文化論研究室では、筮竹を3度入れ替える「略筮法」という手法でお客さんを占う。

ではなぜ占いを、その中でも易をすることにしたのか。小川さんと赤間日向子さん(文学部4年)に話を聞いた。「研究室内で学年や国籍を超えた交流を深めつつ、研究室外に向けても北大中文の魅力を発信したいと考えて出店を決めた」と小川さん。中国文化論研究室は「中国思想・哲学」と「中国語学・文学」の2分野に分かれており、赤間さんは「私と小川さんの間には、研究室が持つ2つの研究分野の特色を、一般の方に効果的に伝えられる出し物にしたいという共通意識があった」と振り返った。その結果、思想・哲学分野からは易を、語学・文学分野からは中国文学作品の一文を利用したオリジナルおみくじを提供することに決まった。

易を行うに当たっては、易学思想史を研究対象とする近藤浩之教授(文学部)に協力をあおぎ、易に必要な道具を貸してもらった。近藤教授は易の練習指導も担当し、希望者を募った正式な講習会を5月に2回実施。その後も個人や友達と練習して腕を磨いてきた。惠本嘉隆さん(文学部4年)は、個人では筮竹の使い方と、参照する『易経』の注釈・日本語訳の引き方を練習し、2人以上いる時に相手に占うテーマを出してもらい考察を語る練習をした。練習を重ねる中で「相手の悩みや占うべきところを聴くときに、相手に寄り添う姿勢を大事にしよう」と思ったという。

練習をする中で易の世界にはまった人もいる。下野大喜さん(文学部2年)もその1人で、今まで知らなかったことを知る過程が楽しく、のめり込んだ。「当初は略筮法の手順を覚えるのに苦労し若干の不安を抱えたが、楽しみながら練習することができた」と語る。

易で参考にする表。縦横の交差した点が結果となる

ただ、中国文化への造詣が深い研究室の面々でも易の修得には苦労した。易を行う上で難しい点を尋ねると赤間さん、惠本さんが揃って挙げたのが「占いの解釈」。『易経』に書かれていることを上手く理解・解釈し、現実の悩みに結びつけて回答する過程はハードルが高いという。しかし、赤間さん曰く、研究として普段行っている文献読解と『易経』の解釈は似ている部分がある。研究の姿を一般の方に見せられる良い機会になりそうだ。惠本さんは、占うテーマと全く関係ない卦(け=易の結果あらわれるしるし。これを見て占う)が出る不安が拭えないとしつつも「そこが腕の見せ所らしいので、頑張ろうと思います」と意気込みを語った。

今回、記者も実際に占ってもらうことになった。そこで占いを受ける前に「占えること・占えないこと」を聞いた。タブーとなるのは「占う問題について十分な考察を加えないまま占うこと」。”人事を尽くして天命を待つ”姿勢が重要になる。

筮竹を分ける赤間さん。ここで「天地が分かれる」という

そして同じことを二度占うのも厳禁だ。易で問うのは質問者が最後の決断を下す時で、占った結果は素直に受け入れねばならない。

また、抽象的なことや質問者の決断が下されていない事柄、問うまでもない不正や犯罪、他人への危害に関する事柄も占うことはできない。こうした条件の多さから、占うハードルが高くなりそうだが、今回の占い屋さんでは質問が検討不十分の場合、占い師が協力して具体的な質問へ導いてくれるという親切な設計となっている。

料金は1回200円。記者が会場に到着したときには、既に易待ちの列ができ、名簿に名前を記入することになった。日本における占いの人気と、専門家監修の希少性があいまって、多くの関心を呼んでいる。

「研究室以外の人は、筮竹に対し『長い棒をジャラジャラする中国の占い』のイメージを共通して持っており、かなり食いついてくる」(赤間さん)。

手元で引く『易経』の注訳・日本語訳。年季の入った書籍をめくってゆく

記者が占ってもらったのは「友人関係の悩み」。絶妙なバランスで成り立つグループの存在、連絡の取り方について相談すると…
「選んでもらった占い方が『現状と未来』について。今は決断が正しいから、自身の態勢を貫いて構わないです」。『易経』に現れる「君子」「小人」などを、相談内容に当てはめながら適切なアドバイスが飛んでくる。未来に関しても、筮竹が出した結論は「亨る(とおる)」。解釈は伏せるが、ある程度明るい未来とあるべき姿が分かっただけに、易の後には非常にすっきりとした気持ちになった。

札幌市在住の60代女性は、北大祭HPで金曜日にも行われる企画を見る中で、関心のある中国関係の企画であったため来たという。これまで様々な種類の占いをしてもらってきたが、易は初めて。引っ越しを数年検討しているが、家族の事情で難航していたという。

易の出した答えは「正しい道を守り、思いを実現させること」。担当者には「子供と親と、お互いの気持ちを尊重し、辛さを分かりあうことが正しさに繋がる。まずは距離を置いて息抜きをし、その後は引っ越しに向けて初志貫徹が良い」と説明を受けたという。
「長年人に愚痴を吐かないことを美徳としてきた。だが今回、バックグラウンドを知らない人から言葉を貰うことで、まっさらな意見を知ることができた。自分が判断する助けにしたい」と語った。

常時数か所で占いが行われていたが、教室外で待つ人も絶えなかった

始まって数年足らず、より多くの来場者を期待したい文系祭にとって、研究分野の専門性を生かした体験型の企画は大きな助けになるだろう。占いの他にもおみくじや展示・雑誌販売も行っており、悩みを打ち明けたくない方も気軽に訪れて楽しむことが可能だ。

もちろん、何かしら悩みぬいた結論に自信を持てない方は、その是非を問いに訪れてはいかがだろうか。

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小川さんコメント

「今年初の試みで苦労もありましたが、研究室内外の皆さんのご協力をいただき、ここまで準備を進めることができました。『中国文化論研究室の占い屋さん』では、ここでしかできない北大中文ならではの魅力が詰まった体験をすることができるので、ぜひ足を運んでみてください!」

「中国文化論研究室の占い屋さん」は6月6日(金)〜8日(日)で開催。易占いは1回200円で頼むことができる。詳しい時間・会場位置などは文系祭公式HPを参照。

(取材・執筆・撮影:古谷)