連作小説「北極星をえがく」7月25日から配布開始
全国の書店の協力とメディアの取材
「最初は北大に足を運んでもらって手に取ってもらえればと思っていたけれど、よく目的に立ち返ったときに、やはり絶対、外でいっぱい(冊子を)手に取れるようにしたいなと思った」と野口さんは話す。北大の構内以外には、北海道庁旧本庁舎(赤レンガ庁舎)、札幌市時計台、道内の書店。配架を打診すると、いずれも快諾を得ることができた。
そして当初は、道外への冊子の供給のため、北海道庁の委託により運営されているアンテナショップ「どさんこプラザ」への配架を計画していた。全国に複数店舗を持ち、以前北大創基150周年のパンフレットの配架にも応じてくれていたため、絶好の配架場所だと思われた。しかし、「将来的な書籍化は営利目的になりかねない」と、計画は頓挫。
「実は……」焦った野口さんは、祥伝社との打ち合わせで相談をした。「道内のように書店さんにも協力いただけないでしょうか」祥伝社の販売部から返ってきたのは、「この企画は、本の世界を元気づけるような企画。書店は絶対に乗ってくるから、道外にも声をかけてみます」という、力強い言葉だった。
候補に上がった数々の道外の書店では、ただ冊子を置くだけではなく、宣材を用いて岩井さんのコーナーを作るということで応じてくれた。「北極星をえがく」最終話が世に出る7月まで、1年半ほど継続して、店内で場所を確保するということだ。
「非常に協力的な大型書店がいくつもあり、取ってもらいやすい置き方にしてくれていたり、全国の全店舗に置いてくれたりしている」。
大きな書店だけではない。規模の小さい書店からも配架の希望がある。「おそらく岩井さんファンの書店員さんがいて、ぜひうちでもやりたいと言ってくれている」。

広報課側の予想以上に、たくさんの書店が応じてくれた。もともと配架しようとしていたどさんこプラザの店舗数を遥かに上回る数の配布場所ができた。「結果的にはよかったかな」と、野口さんは安堵の声を漏らす。
メディアの反応もよかった。NHK、読売新聞、共同通信などの大手メディアがそれぞれ「北極星をえがく」を取り上げる。報道の度、配布場所に冊子を取りに来る人が増えた。「足りないので追加してくださいという声が、どんどん入ってきた」と野口さんは話す。
北大の外での需要に答えるため、学内よりは学外を優先して配布している。「学外の方々に北大の今を知ってほしい」という目的のためだ。
野口さんが驚いたのは、赤レンガ庁舎に置いた冊子の売れ行きだ。「1コーナーにはさせてもらっていたけれども、有料の施設だし、あまり来ないかなと思っていた」。しかし、配布初日から150冊がすべて捌け、再度配置するたびになくなった。赤レンガ庁舎では、累計1500冊以上が来訪者の手に渡ったという。
農学部のワイン教育研究センターは、小説と現実が重なる場所。本作の主人公の実家がワイナリーであること、現在のワイン教育研究センターのセンター長が、岩井さんが所属していた研究室のかつての准教授だったこと。縁が重なり、週末には学外からの訪問者が訪れる場所ということもあり、配布場所のひとつとなった。
北大創基150周年と「北極星をえがく」
読者に向け、「ここから『北大の今』というのを感じてほしい。小説の中で北大生になってもらえれば」と野口さんは話す。「150周年だから」ではなく、ここを起点としてたくさんの世代の人に北大を好きになってもらいたい。本作には、こんな願いが詰まっている。それはもちろん、学生が対象でないということではない。主人公は学生と同年代として描かれている。「自分の学びをもう一度考える機会になったりとか、等身大の形で読んでいただきたい」。友達のような感覚で読める、という声も上がっているという。
小説は好評だが、増刷は予定していない。
2026年7月に行われる最終話の配布で終わりではなく、単行本化も見据えているという。
小説作りのため、関係者とともに奔走してきた野口さんは、ここまでの道のりを振り返り、「どこでもやったことがない企画だったので、新しい企画で楽しかった」と言う。
初の試みは、岩井さんの執筆の早さに助けられたところもあったという。「すごいスピードで書いていただいていて、我々がこういう期間でやりたいですと言ったのにも応じていただけたので、非常にありがたいなと」。そして「深い北大愛を感じる。前向きに北大に想いを持って応じてくれている」。
一方、「楽しい中でも手探りなので、どうしよう、と思いながらやってきたというところもある」と話す。「絶対これ関心呼ぶよ、とか言われていましたし、手に取ってもらえるとは思いながらも、実際に配布開始して、どれだけの人が手に取ってくれるかなと。岩井さんの本だし間違いないだろうと思いながらも、そこは少し不安だった。今はこういう形になっていてありがたいなと思ってますね」。
第1話が大きな話題を呼んでいることについても、「ありがたい」と話す野口さん。
「北大だけでどんなに何かやっても発信しても限りがあると思うんです。今回は、岩井さんも書店さんも発信してくれてわーっと広がって、うちだけでは考えられないような」反響が得られているという。「そういうことができたというのは、本当にいろんな協力をいただいて」「私としては本当に画期的な話だなと思っております」。
北大への愛の結晶であるこの小説。ぜひ手に取り、岩井さんと岩間さんが描く北大に遊びに行ってみてほしい。
なお、本作品についての詳細・配布場所等の情報は、以下のHPを参照。
https://www.hokudai.ac.jp/novel
(取材・執筆・撮影:品村)