「コミュニティの中で育てたい」 北大生夫婦の妊娠〜子育て

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1月11日、現役北大生の高木翔成(しょうな)さん(医学部4年)と高木このはさん(農学部3年)の間に第1子が誕生した。

結婚を前提に付き合っていた2人は、妊活を経て2025年5月に妊娠が判明した。このはさんの妊娠当時、2人は北海道大学YMCA汝羊寮(じょようりょう)(以下、汝羊寮)の寮生だった。出産してからは卒寮生として汝羊寮と関わっている。汝羊寮をはじめとしたコミュニティの中で子どもをもうけ、子育てに取り組む2人を取材した。

なぜ今「子どもが欲しい」のか

翔成さんが子どもが欲しいと思ったのは、留年中に世界一周の一人旅をし、様々な人と出会った経験がきっかけになっているそうだ。「世界中で出会ったお年寄りが皆、嬉しそうに子や孫の話をしていた。自分も命の連なりの一部なのだと感じ、次へ繋ぎたいと思った」と振り返る。上の世代から自分の世代への命の繋がりを感じ、自分も繋いでいきたいと感じたという。

このはさんは、汝羊寮を中心にして築いてきたコミュニティの中で育てたいと思ったという。「寮生活が好きで、パートナーと2人暮らしをしてからよりも、このコミュニティがあるときに子どもを産んだ方が、人に囲まれ、孤独になることなく、楽しく子育てができるのではないか」と語った。

人との繋がりとコミュニティ

汝羊寮は、2023年に新体制で運営が再開した自治寮だ(関連記事:北大YMCA汝羊寮再始動)。このはさんは2024年度、寮代表を務めていた。はじめは自治の仕組みづくりに苦労したものの、それも楽しかったそうだ。寮内のイベントとして飲み会をしたり、一緒に鍋を食べたりしており、外部の人を呼ぶこともあったという。

汝羊寮は、地域の人が作った料理を持ってきてくれたり、寮の掃除をしにきてくれたりと、地域とのつながりが強い。町内会にも所属している。また、2人が所属する学生団体waccoでは、高齢者と学生を繋ぐ活動をしており、おばあちゃん料理会やスマホ教室などのイベントを汝羊寮で行うこともあるそうだ。2023年に運営が再開してから、様々な人を招いてイベントをしてきたからこそ、このように寮生だけでなく様々な人が足を運ぶようになったのだろうという。

さらに、2人は寮の外でも様々な交流会に足を運んで、SNSを交換し、自分たちのやりたいことや思いを発信するということを続けてきたという。waccoの活動を通じて、イベントに呼ばれ、プレゼンする機会もあり、そこでも様々な人と知り合ってきた。また、このはさんの妊娠前には、人が集う場所を作ろうと、麻生で間借りの居酒屋valeを運営していた。その時にできた知り合い、お客さんも今回の結婚・出産を応援してくれているという。

このはさんの妊娠がわかってからは、寮生が助けてくれた。翔成さんとこのはさんが体調や精神状態を伝えると、寮生は理解しようとしてくれて、買い物や料理などを代わりにしたり、話し相手になったりしてくれたという。2人は出産と同時に寮を出ており、現在は卒寮生だが、寮生が家に遊びに来たり、逆に寮に行ったりと、形は変わっても関係は続いているそうだ。

2人が積極的に様々な人と出会って、関係を築いてきたことがわかる。このはさんは「実家は道外で親が近くにいないけれど、ありがたいことに、寮生やその他の友達、地域のおばあちゃんたちからの助けを借り、楽しく子育てできている。助けてもらうのが私たちだけではもったいない。こうしたいろんな人が助け合うコミュニティをこれからも作っていきたい。」と語った。

月に1度、汝羊寮で開催されている「赤ちゃん塾」の様子。高木さんの実体験をもとに、妊娠・出産・子育てのリアルを学生が学ぶ場となっている。

子育てと学業

子育てと学業との両立はどうしているのか。翔成さんは、医学部の病院実習もあるが「医者よりは時間を取れる」と言う。「妊娠中も早く帰ってきてくれた」とこのはさん。現在は両立できているそうだ。

このはさんは、妊娠してからはつわりによる体調不良であまり大学に行けず、現在は休学中だ。出産前は、2026年度から復学できたらと思っていたが、経験者からのアドバイスもあり、体のことや子供のことを考えて、現在は2027年度から復学したいと考えている。子どもが0歳から1歳になるまでの間は、精神の発達に大切な時期だ。それまでは「ちゃんと子どもとの時間をとってあげたい」のだという。北大周辺には、複数の保育施設があり、もしそこに子どもを預けられるのなら、すぐに迎えに行ったり、通園・通学を一緒にしたりできるようだ。

費用と子育て支援

妊娠・出産・子育てにかかる費用を、ほとんどの学生は知らない。なんとなくお金がかかりそうだと思った学生から「お金はどうしているのか」と質問されるという。

例えば出産費用は、通常分娩だと保険適用外となる(2026年度を目処に保険適用が検討されている)。高木さんの場合は58万円だったが、公的医療保険加入者が出産時に支給される出産育児一時金が50万円あったという。さらに毎月1.5万円の児童手当の支給があるほか、高木さんは非課税世帯なので、保育園の費用は無料になる。札幌市では、2歳未満の乳幼児がいる世帯への家庭ごみ有料化の減免制度がある。

北大でも、ダイバーシティ・インクルージョン推進本部(DEI推進本部)が、出産・育児・介護との両立支援を行っている。学生が出産する例が珍しいためか、研究者や教員に向けた制度が多く、学生が利用できる制度は少ない。2人はこの制度を知らなかったという。このはさんは「妊娠中(休学前)に知っていたら、利用できたかな」と話していた。

子育て用品は、抱っこ紐や授乳クッション、毛布、ベビー服など、ほとんどが人から譲ってもらったものだという。「(もし自分で揃えていたら)10万円くらいしたかもしれない」とこのはさん。これも、それまでに繋がってきた人との関係を大切にしてきたから、多くの人から応援してもらえたのだろう。

高木さんが伝えたい思い

2人は北大生に対して「札幌の子供から高齢者まで色んな人と関わって、学生の友達もたくさん作って、何かを一緒に運営して、仲間になって、喧嘩して、その中で親友だったり恋人を作って欲しい」というメッセージを伝えたいという。この思いは、汝羊寮で運営をしてきた経験から来ているそうだ。

「寮の運営のように、一緒にプロジェクトを運営するなど、学生のうちに仲間と濃い時間を過ごす経験をしてほしい」。「時にぶつかることがあっても、仲間と一緒に何かを作り上げてただの友達ではなく、もっと深い関係性の特別な仲間を作ってほしい」。2人はそう語った。

子どもができたら、旅行に行ったり、飲み会に参加したりすることが難しくなる。そう指摘されることもあるというが、翔成さんは、「旅行とか、飲み会とか、留学とか、自分が楽しんだり刺激を受けたりすることはインプットの話だよね。でも、北大祭での発表とか、子どもを産み育てるとか、そういうことはアウトプットで、その方が面白いんじゃないか」と語る。インプットよりもアウトプットの方が面白い。大学生のうちにもっとアウトプットをしてみたらいいのではないかということだろう。

汝羊寮で共同生活をしたり、waccoの活動を通して高齢者の活躍の場を作ったり、コミュニティの中で子育てをしたり、そういったことは全て、北大の基本理念である「フロンティア精神」を体現しているといえるのではないかと翔成さん。フロンティア精神とは「学生及び教職員がそれぞれの時代の課題を引き受け、敢然として新しい道を切り拓いていくべきとする理想主義」を指す。少子高齢化や核家族化、孤立という現代の課題に向き合い、新しい道を切り拓いていく。1つのモデルケースなのだと翔成さんは語った。

人と違うことをすれば批判されることもある。しかし、多くの人からの応援もあり、それは心の支えになったという。型にはまらなくてもいい。新しい道を切り拓く2人は、これからの子育て世代のロールモデルとなるのかもしれない。

(取材・執筆:佐藤、写真提供:高木翔成さん)