北大YMCA汝羊寮再始動

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2023年4月から、北大YMCA汝羊寮(じょようりょう)に新たな住人たちが入居し、新体制での運営が始まった。存続の危機を乗り越えた、汝羊寮の今を見つめる。

汝羊寮について

北大YMCA汝羊寮の正式名称は「北海道大学基督教青年会寄宿舎汝羊寮」。1904年(明治34年)に北海道大学基督教青年会によって作られた。2021年に最後の寮生が退去し一時存続の危機に瀕した。しかし、2023年3月に学生が集い新体制を構築。存続危機を乗り切ることに成功した。現在の寮には住民が集い活動を行う集会室や和室、共用のキッチンや浴室、個人の寝室となる約六畳の小部屋が18部屋など、共同生活を営むのに十分な快適さが確保されている。

新体制にたどり着くまで

北海学園大学法学部2年の中静淳さんは、2022年10月に「君のハートを全肯定、幸せをシェアするシェアハウス」の設立にプロジェクトを立ち上げた。プロジェクトメンバーには北大生が多かったので、地下鉄南北線北12条駅、18条駅付近で物件探しを始めた。なかなか条件に合った物件が見つからずに苦戦する中、知人の紹介で汝羊寮を大切に管理する北大YMCA理事の松尾さんに連絡を取ることに成功。汝羊寮の鍵を受け取りプロジェクトメンバーが初めて汝羊寮を訪れたのは翌年3月だった。

当時の汝羊寮は、人がすまなくなってから半年以上は経過していたため、荒れ果てた様子だった。家具は倒れ、空き部屋には木材などのごみでいっぱいになっていた。冷蔵庫には腐敗した食材がそのままになっていたという。除雪や清掃作業を必死で行い、3月19日に最初の一人が入寮し、新体制がスタートした。

現在の寮生の様子(前列中央が中静さん)

現在の寮体制と施設紹介

汝羊寮では9月の時点で住民9名が生活している。再始動以前までの寮生は男子学生のみで構成されていたが、現在は9名のうち4名が女性である。

以前と変わらない点は自治寮であることだ。管理者は不在で、食事は自分たちで用意している。学生自身が生活のルールや活動を話し合いで決定し、安全で快適な暮らしのために試行錯誤しながら生活を送っている。

1階部分の施設を紹介する。集会室は、住民が自由に集い雑談をしたり、作業をしたりする場所だ。月に一度の例会では、聖書研究や学生活動の報告などが行われ、寮OBや理事との交流も行われている。共用のキッチンは9人で使うのに十分な広さで、オーブンや冷蔵庫は複数置かれている。浴室も広く男子でも3人は同時に入れる広さで、大人数での生活を支えている。一人一人の部屋は2,3階にあり、女子が2階、男子が3階に一人一部屋持っている。

寮生がつどう集会室

汝羊寮での暮らし

寮の再始動をけん引した中静淳さんに話を聞いた。寮での生活について「日々学びがあります。違う家庭で育った違う価値観の人と生活を共にすることで、お互いを理解しあう姿勢が身につくと感じます」と話した。ルールを一から作り運営する中で意見の衝突などを乗り越えることが、この気づきを生んだという。さらに「ご飯を多めに作って分けてくれる住人がいたり、快適な生活のために掃除を分担して行ってくれたり感謝している」と楽しそうに語る。どのような寮にしたいかという質問に対して「昔から夢を語っても、どうせ無理だといわれることが多かった。意見ややりたいことが肯定される、安心できる環境にしたい。そのような考え方が様々な場所でも広まればよいと思う」と答えた。

歴史深く、先人たちのたくさんの思いが詰まった汝羊寮で、相互理解を学ぶ共同生活や学生の挑戦の姿勢を支えるコミュニティが再び作られている状況に、良い縁を感じずにはいられない。
(取材・執筆・撮影:後藤)