北大飲食店列伝⑤ 「安くておいしい」を叶える工夫 ―レストラン クラーク亭
北大周辺の飲食店を取材する企画「北大飲食店列伝」。5回目となる本企画の舞台は、2023年で創業30周年を迎えたレストラン「クラーク亭」だ。創業時からオーナーを務める橋田竹雄さん(70)に話を聞いた。長い間クラーク亭が愛され続けてきた背景には、「安さ」と「おいしさ」を両立させる経営努力があった。

北大生御用達の洋食屋
クラーク亭は北大の北13条門を出てすぐのところにある、北大生御用達の洋食屋だ。主にハンバーグやステーキなどを提供しており、その立地の良さとボリューム満点で豊富なメニューから人気を博している。
橋田さんは、「最近は少ないけど、夜なんかはサークルや部活終わりに10人とか20人とかのグループがよく来ていた」と北大生について語る。クラーク亭は北大生にとって、仲間と集まる憩いの場になっているようだ。
クラーク亭によく足を運ぶというという北大生は、「10人とかでも入れるから、部活終わりによく来る」と、クラーク亭の良さについて語る。クラーク亭の店内はかなり広く、席も80席以上あるため、大勢のグループが入りやすくなっている。最も多い時では70人のグループが来店したこともあったという。橋田さんは、「この辺にはそういう(大人数入る)店があまりないから、うまく利用していただいてると思う」と語る。
グループで来店する北大生にまつわるエピソードについて聞くと、「ご飯足りないんだわ」と言う橋田さん。「混むときはいっぺんに混むから、『ちょっと待っててください、炊けるまで』ってなる。10人以上になる場合は、前もって電話いただけるとありがたいです」と終始笑顔で語ってくれた。
品質を保つためのこだわり
続いて、橋田さんが1番人気だと語るハンバーグについて話を聞いた。クラーク亭では、ハンバーグに用いるひき肉やハンバーグのソースなどをすべて店内で手作りしているという。
ひき肉について橋田さんは、「一般的にはうちのような1店舗しかない小さな店だと、業者に挽いてもらったものを店で混ぜることが多い」としたうえで、「肉の挽き方にも、どういう状態で挽いたらおいしくなるか、配合をどうするかなどあるので、配合を自分の店ですることで品質を保つことができる」と語る。たとえばクラーク亭のひき肉は牛100パーセントだが、和牛と輸入牛の組み合わせや牛肉の部位ごとの特徴を考慮して配合しているという。また、店内で挽くと手間がかかる一方で、業者に依頼する際の高い加工賃をカットできるため、価格面でもメリットがある。
「安いイメージ」を生み出す価格設定
クラーク亭が長年人気を保っている理由のひとつは、その安さであろう。2025年2月には100円程度の全体的な値上げがあったものの、例えばハンバーグM(200g)は税込み1000円。やはり市場価格に比べて安く感じられるが、実はこの価格設定にはある意図があった。
「だいたい最低賃金と同じぐらいなんだよ」と橋田さんは言う。確かに、通常サイズのハンバーグやチキン、カレーは1000円。現在の北海道の最低賃金である1010円より若干安くなっている。この価格設定について橋田さんは、「税込み価格を最低賃金よりも安くすればお客さんは付加価値を感じて、安いなと思われるのではないかと考え、昔からそうしてきた」と語る。昔最低賃金が580円だった時代にランチメニューを580円にしたのが始まりだったそうだ。
長年のこうした価格設定の工夫が「安い」というイメージを定着させ、集客力の維持につながっているのであろう。現在でも物価の高騰の影響を受けながらも売り上げを保つことができる理由は、こうした戦略にもあるのかもしれない。

最後に、実際に記者がクラーク亭のハンバーグをいただくことにした。注文したのは通常サイズである「ハンバーグ M(200g)」のライス大盛だ。

運ばれてきたハンバーグから香ばしい香りが漂い、食欲をそそる。早速ナイフを入れると、中からじんわりと肉汁があふれ出す。ひと口食べると、ジューシーな牛肉のコクが口いっぱいに広がり、程よい味付けも相まってライスが進む。
次に手を伸ばしたのは、大根のサラダ。シャキシャキとした食感が楽しく、玉ねぎのドレッシングとの相性も抜群だ。付け合わせのフライドポテトも絶妙な塩加減。最後に温かいスープを飲み干すと、気づけば皿は空になっていた。空腹でクラーク亭を訪れた記者だったが、満腹になって店を後にすることができた。
30年以上もの間、多くの北大生や地域の人々に愛され続けてきたクラーク亭。その裏側には、橋田さんの変わらぬこだわりと、時代に合わせた工夫があった。物価高騰という逆風の中でも、「おいしさ」と「安さ」を守り続ける姿勢が、これからも多くの客を引き寄せるのだろう。
[店舗情報(3月1日現在)]
レストラン クラーク亭 北12条店
住所:北海道札幌市北区北12条西4丁目1-18
営業時間:11:30〜23:00
定休日:火曜日
電話番号:011-726-0029
(取材・執筆・撮影:木本)