「若者よ、大志を抱け」冒険家・三浦雄一郎さん【北大人に聞く 第8回】

「若者よ、大志を抱け」冒険家・三浦雄一郎さん【北大人に聞く 第8回】

朝日モーニング
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プロスキーヤーとして活躍後、エベレストに3回登頂し世界最高齢での登頂記録を更新した冒険家、三浦雄一郎さん。本学獣医学部の卒業生だ。その挑戦の原点は本学の切磋琢磨しあう環境だった。「北大人に聞く」第8回で今後の目標を含め聞いた。

北大に憧れて

青森県出身の三浦さんは、小学生の頃からスキーと登山を愛し、慣れ親しみ、高校では青森県代表のスキー選手になるほどだった。

1952年、複数のスキーの強い私立大学からのスカウトを断ってまで本学に入学。確かに当時の本学にもスキー部はあったが、北大と北海道への憧れが背中を押した。父の敬三さんも本学の卒業生で、北海道の大自然の素晴らしさや本学キャンパスの自然の豊かさを聞いていた。「学校自体がまさにエルムのキャンパスで、世界的に見ても素晴らしいと思う」と今でも語る。

そして、本学にクラーク博士が残した「Boys be ambitious !」。敬三さんから聞いたこの言葉にも強く惹かれ、本学に入学した。

「自分の分野で世界一に」

入学後は北大らしい動物と触れ合う学部に憧れたことと動物が好きだったことから獣医学部へ進んだ。

当時の獣医学部にはノーベル賞級の目標を掲げ研究する教員が多くいて、教員にも学生にも「自由にやって各々の分野で世界一になるんだ」という雰囲気が色濃く感じられた。のびのびとやりたいことを思い切ってやれる。そんな環境で勉強できたことは「世界で一番を目指すためには良いことだった」。ここでの学びは、後にエベレスト登頂を目指すときのトレーニングや栄養管理などにも活きた

スキー部ではキャプテンを務め、インターカレッジに出場するなど大いに成果を上げた。専門のアルペンスキー種目で実績を上げたほか、スキージャンプの全国的大会でも上位入賞した。

良い仲間にも恵まれ、中でもマネジャーだった本庄丞(すすむ)さんと気が合った。夢や学問のことから私的な相談まで多くを語り合い、「いずれ自分の分野で世界一になるんだ、とお互いにほらを吹いていた」。卒業後、本庄さんは米国のマサチューセッツ工科大学で世界の最前線に立ち活躍する海洋学者となり、現在も研究を続けている。親交も途切れることなく続き、互いが互いの励みになっている。

また、山岳部に友人が多くいたため、一緒に山や岩によく登った。山岳部員で同じ下宿の友人と共に、日高山脈のペテガリ岳を当時は前人未踏だったルートで登ったこともある。夏にはほぼ毎週、山岳部の友人達と岩穴で土曜日の夜を明かし、夜明けと同時に断崖絶壁を登った。山を登る楽しさをますます実感していった。

そうして大学2年生のとき、スキーや山の分野で世界一の何かになるという夢が芽生えた。

エベレストへの挑戦

本学の獣医学部を卒業した1956年、同学部の薬理学教室で助手となった。だが、次第に「スキーや山の分野で、世界で誰も想像しなかったことをやってみよう」という思いが強まり、58年に26歳で安定した収入を得られる助手を辞職。プロスキーの世界へ飛び込み、世界各国のトップ選手と競うプロスキーヤーになった。

イタリアのプロメーターランセというスキーのスピードレースでは世界新記録を樹立。七大陸最高峰のスキー滑降もすべて達成し、そのうち70年のヒマラヤ山脈のエベレスト滑降では、標高8000㍍という世界最高地点から滑降してギネス世界記録に認定された。

エベレスト登頂のきっかけは、エベレスト滑降のとき「いつか頂上まで登ってみたい」と思ったことだ。98年、65歳のときに一念発起し、5年後のエベレスト登頂を目標として藻岩山などでトレーニングを開始した。このことが計3回のエベレスト登頂への挑戦の始まりだった。

エベレスト頂上の酸素は地上の3分の1、気温はマイナス50℃。登ると20歳加齢するといわれ、高齢での登頂はまさに超人的な挑戦だ。病気や怪我、度重なる手術など「こんなはずではなかった」と思うような数々の苦難を乗り越え、エベレストの山路を「死ぬほど苦しい思い」をしながら歩んだ。大学時代に土台を築いた「世界一になる」という意志を貫き、70歳、75歳、80歳で計3回のエベレスト登頂に成功した。2013年の登頂は、世界最高年齢(80歳7カ月)でのエベレスト登頂としてギネス世界記録に認定。また、2回の親子同時エベレスト登頂もギネス世界記録に認められた。

90歳でキリマンジャロ

三浦さんからの北大生へのメッセージは「若者よ、大志を抱け」。かつて憧れた本学を象徴するフレーズであると同時に、三浦さんが半生をかけ体現した言葉でもある。挑戦し続ける気持ちや体力を維持するため工夫し、世界で誰もしなかった、自分以外できないことをするように心掛けている三浦さん。今の夢は、90歳になったときに子供と孫との三代でキリマンジャロ(標高5895㍍)に登頂することだ。その夢のために現在も、トレーニングを続けている。

三浦雄一郎さんプロフィール

青森県青森市出身。1956年に本学獣医学部を卒業後、同学部助手を経て世界トップレベルのプロスキーヤーに。七大陸最高峰のスキー滑降を完全達成。2003年に70歳、08年に75歳でエベレスト登頂。13年、世界最高齢の80歳で3度目のエベレスト登頂を果たす。87歳。