待ち望んだ4年ぶりのステージ、コロナ乗り越える第一歩に ―北大・京大のマンドリンオーケストラ

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懐かしさの中にどこか哀愁が漂う優しい音が、ホールに響く。本学のマンドリンオーケストラ、北海道大学チルコロ・マンドリニスティコ「アウロラ」(以下アウロラ)は2日、札幌市教育文化会館大ホールで京都大学マンドリンオーケストラ(以下KMO)とともに「京大・北大サマーコンサート2022」を開催した。 

マンドリンはイタリア発祥の弦楽器で、日本には明治期に持ちこまれたとされる。その後まもなく各地の大学でマンドリンオーケストラが結成され、アウロラも大正10年の結団以来99年の歴史をもつ。

演奏に使用しているマンドリン族の諸楽器。奥から順にマンドリン、マンドラ・テノーレ、マンドロンチェロ、マンドローネ。写真の4種の楽器にコントラバスとクラシックギターが加わり、マンドリンオーケストラを構成している
マンドリン(左)とマンドローネ(右)。マンドリン族の各楽器はバイオリンなどと同じように大きくなるほど低い音を出す作りで、オーケストラの演奏に厚みを加えている

そんなアウロラを襲ったのが、新型コロナウイルスの感染流行だ。楽器の知名度が低いことをハンデにしながらもこれまで毎年のように30人近い団員を勧誘できたのは、演奏会でマンドリンの魅力を伝えてきたからだった。例年は4、5回行っていたその演奏会が、感染流行によりほとんど開催できなくなったのだ。100人近くいた団員が30人ほどに減少した現状について、アウロラ代表の森健人さん(農学部4年)は「多くのマンドリン奏者は、大学で演奏を始める。団員減少は道内にある大学の楽団の多くに共通する悩みだが、これがきっかけでマンドリンの奏者人口全体が減らないか心配だ」ともらした。 

勧誘はおろか日々の練習さえままならない時期もあったアウロラに声をかけたのは、感染拡大前には毎年のように全国の他大学とジョイントコンサートを開いていたKMOだ。京都でも学生マンドリン界は苦境に立たされており、コンサートの開催を例年同様のペースに戻す重要性は変わらない。KMOは、数十年前から2年ごとに開催してきたアウロラとのコンサートの復活をきっかけに全国での活動を再開したいと考えていた。これにアウロラが応じ、今回のコンサート開催が決まった。

とはいえ、開催には困難がつきまとった。第一に、コンサート開催のノウハウがほぼない。2年前に中止に追いこまれたアウロラとKMOのジョイントコンサートが無事に開催されたのは、直近でも2018年。当時の1年生ですら、その多くが3月に大学を卒業して団を抜けた後だ。OB・OGにも話を聞いた、と森さんは話す。

また、開催に向けた直前の合同練習も例年とは異なる実施を強いられた。合宿所を借りきって一日中合奏をしていた以前の合同練習は、感染拡大防止のため実施できなかった。札幌市内で合同練習を行った今回は練習終了後に毎回楽器を持ち帰る必要があり、公民館の狭い廊下を抜けて大きな楽器を車に積み込むだけでも一苦労だ。

それでも、開催前日に練習を訪れた記者の前で森さんは期待を語った。「マンドリンの魅力を伝えることももちろん大事だが、それ以上に舞台で演奏することが楽しみだ。今回は、私たちが『演奏会の楽しさ』を思い出すステージにしたい」

そして迎えた当日。切なさを感じさせる旋律が印象的な「オブリビオン」から始まった第1部の北大ステージは、会場をゆったりとした響きの世界へと誘った。KMOの京大ステージを挟んだ後に迎えた両楽団の合同ステージで演奏されたのは、日本の古典音楽を想起させる「舞踊詩」。土俗的な表現を得意とする作曲家、大栗裕氏の人気曲を演奏したステージでは、マンドリンの表現する音楽的世界観の幅広さを見せつけた。

ステージで演奏する団員たち(2日、札幌市教育文化会館 アウロラ提供)

有観客での開催をずっと待っていた関係者や北大生らが詰めかけたホールは、祝福ムードに包まれた。札幌市内から来たアウロラOBの70代男性は「練習場所の確保だけでも大変だったと思うが、こうして演奏会が開催できて本当によかった。また団員が増えるといい」と感慨深げに話す。

開催を終えて、森さんは「準備は大変だったが、演奏会が無事に開催できて本当によかった」と話した。「終演後の後輩たちの顔は、僕が見た中で一番キラキラしていた。『コロナ禍では自己表現の機会が失われて感情の起伏が少ない人が増えた』とも言われるが、今回心の底から喜びが生まれるような思い出づくりに貢献できたことを誇りに思う」

アウロラの次回のコンサートは、12月27日に札幌コンサートホール「kitara」大ホールで開催予定の定期演奏会だ(3年ぶりの有観客開催)。興味を持った方はぜひ足を運んでみてほしい。

※2022年9月22日13:02 写真のマンドリン族の名称を訂正しました。