サイエンスフェスタ2023開催 多くの来場者訪れる

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本学と札幌市は昨年12月16・17日、前年に引き続きサイエンスフェスタ2023を開催。同イベントは札幌駅前通地下歩行空間やサッポロファクトリー(札幌市中央区北2条東4丁目)、紀伊国屋書店札幌本店(北海道札幌市中央区北5条西5丁目7)で同時実施された。多くの来場者が訪れて、本学の研究や学びに触れた。

新たな視点から見るヒグマ 

文学部の博物館学の授業の内容を紹介するのが「ヒグマのとなり ←つかず、はなれず→」だ。ヒグマを「怖い」「凶暴」などといったイメージではなく「個性」「歴史」といったキーワードから捉え直した展示で、文学部以外の学生も同企画に参加しているという。「専門家の立場からではなく素人の学生が一から調べてつくったものを共有したい」と本学文学研究院の久井貴世(ひさい・あつよ)准教授は語る。


「ヒグマのとなり ←つかず、はなれず→」

久井准教授は普段、鳥の歴史や文化について研究している。ヒグマの専門家でないからこそ、ヒグマの生態やヒグマとヒトとの歴史的なつながりを伝えられる面もあるという。先日本学学生が犠牲になったヒグマの事故をはじめとする熊害について、「事故が起きないようにヒグマとの接触手前で防ぐことが大切であり、そのためにどうするか自分たちで考えていくことが出来れば良い」とコメントした。

また、「ゾーニング管理(注)」を用いた展示もひときわ目を引いていた。この展示物の作成を提案した本学理学部の杉浦寛太さんは、「文字だけの展示が多いため、物を置く展示で視覚的にわかりやすく伝えたかった」という。

授業でゾーニング管理について学び、担当教員やメンバーと話し合い作り上げた展示物。クマと人間のすみ分けがはっきりとわかるようになっており見ごたえがあった。

ゾーニング管理を用いた展示

展示を熱心に見ていたのが、札幌市在住の高校1年生。感想を求めると「ヒグマについて怖いという印象を持っていたが、展示を見たことによってヒグマの個性をおもしろいと思えるようになった」とコメントした。将来は生物について学びたいと語っており、本学農学部への進学を志望しているという。

大学院生によるSDGsについての研究発表

サイエンスフェスタの中心企画である「研究成果でSDGsに貢献する発表会」では、本学大学院博士課程の学生が自身の研究についてのポスター発表を行った。学生による分かりやすい発表は一般の方々に人気で、前年を上回る約3000~4000人の来場者が会場に集った。

来場者の本学理学部2年の学生は、タンパク質や細胞に興味があるという。きれいな図を用いて初心者にもわかりやすい説明のポスターなので、「自分の今後の研究発表に生かせそう」と語る。

様々な研究を紹介する展示ポスターが並ぶ中、自身の研究について対面で来場者からの質疑に対応する学生の姿も見られた。

科学館をはじめとしたミュージアムの評価についての研究をしているという、本学教育学院・博士1年の森沙耶さん。ミュージアムの良し悪しが展示物の量で判断されている現在に疑問を持ち、次の展示物に生かせるような評価に変えるべきだという。

森さんは来館者の会話から展示を評価することを試みており、科学館に来館する子供連れの家族を対象に研究している。親子の間で会話がある方が子供の学習効果が高いことに気づき、親が子に対して担うファシリテーター役に注目している。

ここでいう『ファシリテーター役』とは家族間での会話中に発せられた意見をまとめ、より良い結論に導く役のこと。森さんはこの役に注目をすることで、問いかけのバリエーションを見つけて、美術館などの他の館種でも応用できるようにしたいと話す。

同研究の展望について、「ミュージアムは財政難である。今ある展示物を活かし、来館者の会話によって作り出される展示を目指せるように現場のミュージアムに貢献出来たらと思う」と森さんは語った。

自身の研究成果と、その横に立つ森さん

本学大学院国際感染症学院の池端麻里さんは、プロバイオティクスを用いたウシ感染症に対する新規制御法を開発しているというが、ウシなどの動物だけでなく、同時にヒトや環境の健康も考えた研究をしたいと話す。池端さんの目標は、「自分の研究領域外にいる市民の方々に自分の研究がいかに還元できるか」だ。

自身の研究成果と、池端さん

楽しみながら海やSDGsを学ぶ

LASBOSは海と生き物を学ぶことができる本学のオンライン教材。そんなLASBOSのブースがサイエンスフェスタに登場した。実施した企画は「LASBOSカードラリー」。チ・カ・ホ会場では6種、サッポロファクトリー会場では3種のLASBOSカードと呼ばれる「海と生き物を学ぶ」コレクションカードを集めると抽選会に1回参加できるといったイベントだ。同企画では、ゲーム感覚で楽しみながら積極的に海やSDGs(持続可能な開発目標)について学ぶことができる。

抽選会の景品には「おしょろ丸カレー」や「星屑昆布」、「漁師ふりかけ」などのほかには見ない特別なものが用意されていた。また参加した人は全員参加賞としてLASBOSカードがもらえることから、多くの来場者が楽しんでいた。

子連れの家族で同企画に参加する姿も見られた。

9歳と5歳の2人兄弟を連れて訪れていた札幌市在住の母親は、「通りがかりに、子どもたちが抽選をやりたいと言ったため参加した」と話す。子どもたちは景品を手にして笑顔を見せていた。

スタッフの本学水産学部の2年生は、「この企画を通して自分たちが大学生と漁師の人たちを繋ぐ役割を果たせたら良い」とコメントした。

今回記事として取り上げた企画以外にも、子供から大人までが楽しみながら学べる企画が多くあったため、新たな視点を持つ良いきっかけとなると思う。来年も開催されることが決定したら、ぜひサイエンスフェスタを覗いてみてほしい。

注:ゾーニング管理とは、クマと人間のすみ分けを図り、農林業や人への被害を軽減するためにクマの保護を優先する区域と人間活動を優先する区域を設定する手法である。

(取材・撮影・執筆:武田)