学問の多様性維持、唯一無二の北大へ 実績踏まえ審判仰ぎたい —笠原正典氏【北大総長選インタビュー】

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笠原正典氏

現執行部で理事・副学長を務める笠原正典氏は、外部資金の増加や新型コロナウイルス対応などの実績を強調する。前総長の名和豊春氏が2018年12月に休職してから総長職務代理(いまは総長代行)として大学を運営してきており、これまでの取り組みの審判を仰ぎたい考えだ。学問の多様性を維持し、大学を取り巻く環境が変わるなか唯一無二の北大として存在感を示したいという。

現執行部の実績

「研究面では、第3期中期目標期間(2016年度から21年度)の目標である外部資金獲得額の10%増を、21年度を待たずして達成した。文部科学省などから獲得する科学研究費の新規採択件数も順調に伸びている。世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)に採択されたのも大きな実績だ」

「国立大学経営改革促進事業に採択されたが、その中で本部と部局の『シェアド・ガバナンス(協働統治)の実現』を提唱した。これは、IR(インスティテューショナル・リサーチ)という客観的なデータに基づいて部局との対話を進め、大学の力を引き上げるというものだ。IRデータを見れば有望な若手研究者を発掘したり、異分野融合研究を提案したり、特許出願や民間企業との共同研究を支援したりできる」

「産学連携について、共同研究の受入実績も大幅に伸びている。特許権実施等収入は15年度の2000万円から1億600万円(20年度)と急増した。また、非常に優れた研究者を30歳代前半で准教授として採用し、5年後に教授にする人事制度も創設した」

「教育面における北大の強みは新渡戸カレッジや国際インターンシップ等の校友会(同窓会)協働教育などであり、これを積極的に展開した。また、新センターを立ち上げ、文系理系を問わず今求められているデータサイエンスやAI(人工知能)などに関する教育を受けられるようにした」

「新型コロナウイルス関連では、安全確保のためBCP(行動指針)を策定。経済的に困窮した学生さんには寄付金を原資に大学独自の修学支援を実施した。また、昨年度にELMS(教育情報システム)を更新したため、容量などの点でオンライン講義に円滑に対応できた」

立候補の経緯

「教員人件費ポイント削減幅を13.2%から7.5%へ圧縮するなど現執行部の経営方針は基本的に間違っていなかったと考えている。大学の力の源泉は人なので、削減幅を圧縮していなければ由々しき事態に陥っていたと思っている」

「総長不在で非常に厳しい運営を迫られたが、理事と本部職員が一丸となり、着実に実績を積み重ねてきた。大学の経営には安定性、継続性、発展性が求められる。経営方針が頻繁に変わるのは良くないと考えている。そこで、前総長の問題への対応も含め、有権者や総長選考会議の皆様の審判を仰ぐために立候補した」

大学経営の方針

「北大の強みは総合大学であることだ。沢山の分野の研究者を抱えており個性や多様性がある。その中には外部資金を獲得しにくい研究もあるが、学問はどれも重要。学問の個性や多様性の維持は重要なので、大学から支援していきたいと考えている」

「18歳人口の減少、国際競争のさらなる激化など大学を取り巻く環境は大きく変わるが、積極果敢に対応する。本学が、国内はもとより世界でも唯一無二の総合研究大学として、その存在感を示していけるよう、誠心誠意努力する」

主な公約

「第一の公約は指定国立大学法人になること。北大が満たしていない申請要件は『社会との連携』だが、他大学の伸びも踏まえてシミュレーションしており、22年にはクリアできるように努力する」

「研究面では異分野融合研究を推進する。大規模なプロジェクトは文系理系の研究者が一緒になってやるものと考えている。そのために、まずは未来を担う若手研究者を支援し、研究者同士の接点となる分野横断シンポジウムの開催を支援。さらに大型の異分野融合研究への発展が期待できるプロジェクトを創成特定研究として支援する」

「教育面ではコロナ後を見据えて、オンラインの利点も生かした対面とオンラインによるハイブリッド型教育を学部、大学院で推進する。教養教育では、『コミュニケーション・サステナビリティ・情報』に関する教育を拡充する」

「財務基盤の強化については、第4期中期目標期間(22年度以降)の6年間で外部資金獲得額10%増(165億円)を目標としている。共同研究の契約額の増加や株式収益等の確保も重要だ。また、一等地にある札幌キャンパスの不動産を有効活用することも重要。まだ検討段階なので具体的には申し上げられないが、さまざまな可能性を考えている」

「国際戦略としては、重点地域と重点領域をきっちり定めて、国際交流の質を高める。重点地域としては、北極域、北欧、ロシア、アフリカ、ASEAN(東南アジア諸国連合)などを考えている」

「現在約900人いる事務職員については、キャリアパスを明確化し、働きがいとやりがいが感じられる活力ある職場作りを考えている。事務局長職を廃止し、理事を担当部と直結化することにより、意思決定の迅速化と業務の効率化を行う」

「ジェンダー、国籍、民族などを問わず人権を尊重し、アイヌ民族との関係に真摯に向き合い和解と共生に向けた取り組みを拡充する。このような大学の基本姿勢をダイバーシティ宣言として内外に表明する」

「執行部を監視する監事の機能を強化する。監事支援室を設け、専属の職員を配置する。今は総長の指揮命令下にある職員が監事を支援しているが、監事は執行部をモニタリングする役割なので、ここを分ける必要がある」

総長解任について

「前総長の言動には不適切なものがあったため、現執行部は是正を求めた。しかし、最終的に是正されなかったので、総長選考会議に審議を要請した。現執行部にも責任があるのは認識している。学内への『説明が十分でない』という意見を持っている人もいるようだが、多数の被害者のプライバシーを守るため、個々の事案については説明できない。私は、説明できることは全部話したと考えている」

「検証は行う必要はないと考えている。総長選考会議では非常に慎重に検討されたと考えている。総長選考会議は(同会議が設けた)調査委員会での結果をそのままうのみにしたわけではない。前総長による意見陳述が2回行われ、それも踏まえて部局長5人と学外者5人からなる総長選考会議の委員の判断により解任の申し出をしている。さらに、文部科学省も事実認定を含めて調査し、最終的に解任の判断を下している。そのため、検証については、これ以上のことはできないと考えている。手続きは法律に則って行い、文科省も本学の手続きは適正であったと判断している」

<プロフィル> かさはらまさのり 1984年北大大学院医学研究科博士課程修了。98年総合研究大学院大学教授、2004年北大教授、13年北大医学部長などを経て17年同大理事・副学長。専門は分子病理学。64歳。

お断り インタビュー形式の関係で、他の候補者と記事の形が異なっています。分量など公平性にはできる限り配慮しました。

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