下水からコロナ対策 研究大きく進展、可能性広がる  ー北大工学研究院 北島正章准教授

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昨年3月から始まった下水中の新型コロナウイルスに関する研究は、最近大きな進展を見せている。研究を行っている本学工学研究院の北島正章准教授は本紙の取材に応じ、2つの成果と進行中の取り組み、今後の展望について語った。

濃縮法の開発と変異株の検出

本学と塩野義製薬が共同研究を開始した前年10月以降、2つの大きな研究成果があったという。

一つ目は高感度に検出できる濃縮法の開発だ。下水中の新型コロナは特に日本では感染者数の少なさなどから濃度が低く、そのままでは検出が難しい。そこで濃縮法の開発が必須だが、下水中の実際の環境で効率的にウイルスを濃縮できる方法でなければ、実用化できない。

研究チームは軽症者用の宿泊療養施設の下水に着目。この下水を使って、複数の濃縮法を比較したところ、固形物を含む試料からウイルスのRNA(リボ核酸)の抽出を行う手法が効率的であることが判明した。下水中の新型コロナは大部分が固形物に吸着しており、水中に単体で浮いているものが少ないためだ。

今回開発した濃縮法と従来手法の違い(北島准教授提供)

さらにウイルスのRNAからDNAを合成し(逆転写)、そのDNAを増幅する工程(前増幅)も設けた。これにより100倍以上検出感度を上げることに成功。この工程を設けても、実際の下水に含まれるウイルスの濃度を求めることができる。

新手法では感度が100倍以上に(同准教授提供)

二つ目は、下水中の新型コロナのゲノム解析により、変異株の検出に成功したことである。10月から12月までの軽症者用宿泊療養施設の下水試料や、11月から1月にかけての国内の都市下水の試料を調査した。

まず軽症者用施設の試料の12月分から変異株が検出された。療養者のデータから変異株に感染していたことが判明していたため、手法の妥当性が明らかになった。

さらに、日本で初の変異株感染者が見つかったとされる12月25日以前の12月4日の都市下水試料から、英国型に近い特徴を持つ変異株が含まれていることがわかった。都市下水という相当希釈された環境から変異株が検出されるということは、「ある程度感染が広がっていたとしか考えるしかない」と北島准教授は分析。「すごく衝撃的な結果」と話した。

札幌市と組み実証実験

今回の研究成果は札幌市からの委託研究に繋がった。札幌市から試料の提供を受け、社会実装のための実証実験を行っている。2月中旬に始まり、札幌市は3月末までに下水疫学調査を政策決定に使うことができるかどうか判断する。このような官学連携は全国でも先駆けた事例だという。

さらに進める変異株分析

北島准教授は今後、今回技術開発に成功したウイルスのゲノム解析に関し、観測規模を地域的・時間的に広げたり、解読する範囲をゲノム全体に拡大したりすることで、どのような変異株が、いつ、どこから日本に入ってきたのかということを調べたいとの方向性を示した。

また、実現には膨大なデータの処理が必要だ。人の手では限界があることから、ロボットによる検出全自動化の研究も進めているという。3月に本学と塩野義製薬、ロボットベンチャーのロボティック・バイオロジー・インスティテュート、医療系ベンチャーのiLACの4者間で自動化に向けた研究の開始を合意。4月から本格的な分析作業が開始される。

さらに今後行いたいこととして、東京五輪・パラリンピックの選手村の下水のモニタリングを挙げた。今回開発した高感度な検出手法では、施設内で1人でも感染者が発生した際に検出できる。そのため、選手村で全数のPCR検査を頻繁に行うことなく、下水から陽性反応が出た際に初めて行うようにすることが可能となる。北島准教授は「不要なPCR検査を減らせる」と下水モニタリングの可能性に期待を込める。