北方領土・国後島でエゾシカ定着か 繁殖なら植生破壊に懸念 北大・大舘助教ら研究グループ —低温科学研究所

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国後島の近布内(ちかっぷない)の海岸で撮影された
メスのエゾシカ(2019 年 4 月 12 日、アンドレイ・ポ
リュシュケビッチ氏撮影、大舘助教提供)

本学低温科学研究所の大舘智志助教らの研究グループは、エゾシカが海を渡り北方領土の国後島で2017年以降、定着していると推測されるなどとする研究成果をまとめた。エゾシカは食害や植物の踏みつけなどを引き起こす可能性があり、大舘助教は貴重な植生が残る国後島での今後のモニタリング(観察・記録)の必要性を訴えている。

研究は国後島のクリリスキー自然保護区事務所と共同で実施した。同事務所では1986年半ば以降、エゾシカの写真や、遺骸、足あとといった情報を収集・蓄積してきており、大舘助教らはこのほどこれらを取りまとめた。科学的な裏付けが取れた情報のみを用いた。その結果、17年以降は毎年、フンや足あとが発見され、直接観察もされていたことがわかった。

1986 年〜2019 年に国後島などで確認されたエゾシカの情報(大舘助教提供)

また18年にはメス2頭が同時に観察されており、研究グループは17年以降、少なくとも2頭が定着していると推定。大舘助教によると、今年も4月にエゾシカの痕跡が複数見つかったと事務所から報告を受けたという。一方、国後島での繁殖については、現在のところ確認されていない。

86年から19年にかけてエゾシカの遺骸が11個体見つかっていたことも明らかになった。平均すると3年に1回の割合で、11個体のうちオスは2個体、メスは9個体だった。

エゾシカは北海道のほぼ全域に生息するニホンジカの亜種。国後島では少なくとも江戸時代から2016年まで、恒常的な生息は確認されていない。エゾシカがどのようにして国後島に渡ったのかは明らかになっていないが、冬季に流氷の上を歩いたか、夏季に海を泳いだかが考えられるという。

エゾシカは国内最大の草食動物であり、国後島の対岸にある知床半島などでは急激に増殖したエゾシカによる植生の破壊などが問題になっている。国後島には原生的な自然が残るが、今後エゾシカが繁殖した場合、貴重な植生が食害や踏みつけにより被害を受ける可能性がある。

このため、大舘助教は「今後もモニタリングを行う必要がある」と主張。ただ、入島するのが難しいほか、研究設備も整っておらず、「(その状況で)どうやって貴重な植生を守っていくのかが今後の課題になる」と話す。今年は新型コロナウイルスの影響で現地入りは難しいとみられるが、大舘助教はクリリスキー自然保護区事務所を通じて観察や痕跡調査を続ける考え。また、将来的には遺骸やフンなどからDNAを採取し、知床のエゾシカとの遺伝的な関係の調査を行うことも検討しているという。

今回の研究は、大舘助教が日ロの専門家交流事業に基づく陸生哺乳類調査団の団長として昨年9月、国後島を訪問したのがきっかけ。事務所が情報を蓄積しているとの話を聞き、論文にまとめる運びになった。研究成果は17日、「Mammal Study」誌(オンライン版)に公開された。

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