【受験特集:どんな道でも、道は道】 第3回(4) 勉強だけがすべてじゃないけど、受験勉強するといい 黒川滉太さん(文学部2年)

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「大学には、いろんな人がいる」そんな言葉は、誰しも一度は耳にしたことがあるだろう。だが、私たちはまだ「いろんな北大生」が北大生になった時の話を知らない。聞けそうで聞けない、在りし日のそんな話を取り上げるのが今回の特集「どんな道でも、道は道」だ。はたから見れば小さな、でもそばにいれば大きな選択にじっと耳を傾ければ、等身大の北大生が見えてくる。

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今回の主人公は、文学部2年の黒川滉太さん(22)=徳島・県立城ノ内高校(現・県立城ノ内中等教育学校)卒業=だ。英語の授業で記者と初めて会った時に「一度入った大学を自主退学して北大に入学した」とあっけらかんと話してくれたその姿を見て、特大スクープよりも友達の記事が書きたいと初めて思ったことを覚えている。合格して喜んだ後の話が聞きたい、と取材を申し込むと二つ返事で引き受けてくれた黒川さんの道のりに、記者が迫った。(取材:田村)

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現在の黒川さん(本人提供)

勝負の1年、努力の1年

再受験を決めた黒川さんは、予備校に寮から通うことにしたという。
「いろんなとこから受験生が来てたから、受験する理由も人によって色々やって知って面白かった。医者になりたい、って医学部を何年も目指してる人もいれば、悔しいから、っていうその一点でがんばってる人もいた」

ただ、予備校内に流れる空気には違和感を覚えることもあった。
「成績や第一志望でその人の価値が決まる、みたいな雰囲気があった。受かってもないのに東大志望のやつを持ち上げたり、関関同立志望を落ちこぼれじゃって目で見たり。すっごい嫌だったけど、バカにされるのも嫌だったから強がってみたりもした」 

同じクラスの人と話すのは、模試や授業のことばかり。だからこそ、別のクラスの友達とするたわいない雑談のありがたみを実感した。
「寮の友達やったやつが関関同立目指してたんやけど、毎回サッカーのユニフォームTシャツで授業受けてたんよ。サッカー好きなんやと思って話しかけたら、友達になった」
受ける授業は違うのに、帰りはいつも待っていてくれる。小さな優しさが、心の支えになったという。
「人間って偏差値で価値が決まるわけやないな、って思えた。普通に暮らしてる時の『優しい』イメージからはちょっとズレるかもしれんけど、あいつはおれの恩人やな」
「となりのあいつは仲間でライバル、みたいな話はよく聞くけど、おれの場合は違うクラスの仲間と同じクラスのライバルをきっちり分けてた。もともとストレスたまっとんのに、同じクラスのやつとずっといたら勉強のことしか考えられんくなるやろ。高校時代はクラスのやつが仲間でライバルやったから、やっぱり現役とはまた違うな」 

とはいえ、予備校時代を振り返る黒川さんの口から出てきた言葉は、その多くが志望校判定や点数の推移について語るものだった。黒川さんの浪人生活に、2年目はないのだ。当初は京都大学を目指していたものの、合格への確実性を優先するため夏の終わりに志望校を大阪大学へと変更した。
「記述が書けずに京大オープンでD判、浪人生だったら見込みは薄いでしょ。答えが分かってても、答案で伝えるための言葉が頭の中に足りてない気がした」
「友達には恵まれてたからストレスためてる実感もなかったんやけど、年明けに一瞬だけ原因不明で予備校に行けなくなった。共通テストも1年目やったし、後で考えたら近づいてきた本番にビビっとったんかもな」 

共通テストは模擬試験のようにリラックスして受験できた、と黒川さんは話したが、初の実施となった共通テストでは受験者の平均点が関係各所の予想を大きく上回った。つまり、試験時に感じた手ごたえに比べれば各大学に合格する実際の可能性は低いことがわかったのだ。共通テスト終了後に全体傾向を踏まえ、黒川さんは第一志望を本学へと再び変更した。
「志望校を2回下げることについては、意外と抵抗感なかったな。ちょっとでもいい大学に行けたらそれで、って思ってたから」
「そもそも、おれが現役の時の第一志望って北大だったでしょ。北大は憧れの女やなかったけど、ずっと一緒の幼なじみみたいな感じやったな。秋には北大オープン受けてたし、過去問も見てたから対策は問題なかった」

そして、黒川さんはついに本学の総合文系入試に合格する。
「滑り止めの私立の個別試験に対策ゼロで行ったら不合格になって、ショックで併願校の過去問ばっかり解いてた時もあった。でも、結局は北大の二次の前に合格が一つももらえなかったから、北大入試直前の1週間くらいは浪人生活で一番勉強できなかった」
本学の二次試験には最悪の状態で臨んだが、意地を見せた数学の試験では満点をたたき出した。「人生で最高の出来やったな」と、黒川さん。 

「逃げてるだけじゃ」と言われてから1年、受験勉強は逃げずにやりとげた。「幼なじみ」だった本学との縁も結んだ自身の浪人生活について、黒川さんは「まあ満足やな」と話した。
「合格したのももちろん嬉しいけど、それ以上に一つの努力を最後までやりきった満足感が大きいかな。別の大学に行きたいから頑張ってたわけだけど、それでもやっぱり苦しくても頑張ってみるのは大事だなって思った」

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