【受験特集:どんな道でも、道は道】第5回(2) おもろい成川は、どこにいてもおもろい成川や
「大学には、いろんな人がいる」そんな言葉は、誰しも一度は耳にしたことがあるだろう。だが、私たちはまだ「いろんな北大生」が北大生になった時の話を知らない。聞けそうで聞けない、在りし日のそんな話を取り上げるのが今回の特集「どんな道でも、道は道」だ。はたから見れば小さな、でもそばにいれば大きな選択にじっと耳を傾ければ、等身大の北大生が見えてくる。
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キャンパスには、北大生に「なってしまった人」も意外に多い。今回の主人公、文学部2年の成川航斗さん(21)=京都・私立洛南高校卒業=は定まっていたはずの進路を外れた北大生だ。先輩や同級生と同じように合格できるだろう、そんな未来があっけなく打ち砕かれた。下に見てきた、そんな大学に来てしまった。成川さんは、どうやって前に進もうとしたのか。やりきれない気持ちのまま講義棟に通う過去の受験生が「北大生になっていく」、その過程を追った。
北の大地の後期入試「北大行くわ」
「自分の受験は終わった」そうつぶやくと同時に、「ずっと悩んでもただ病むだけ」と割り切って、スーツケースを片手に伊丹から新千歳行きの飛行機へ飛び乗った。3月の札幌はまだ白銀の世界。北大植物園近くのホテルから文学部後期試験が行われる工学部棟まで約2キロメートルを歩いた。雪の降り積もったキャンパスを前に、不思議と入試に落ちた悲壮感はほとんどなく、北の景色に心を奪われた。
前期試験に合格した志願者は、ここにはいない。試験場には空席が目立った。文学部の後期試験は形式が変更されたため、過去問もないまま本番を迎えることになった。もちろん後期試験に向けた対策はほとんどしていない。北大文学部、初の小論文試験では英文の和訳問題も出題されたが、難なく解くことができた。京大入試のために英語の勉強をしてきたからだ。問題は2周以上解いた。
合格発表は新年度が約1週間に迫る3月22日。実家近くのショッピングモールで、合格を確認した。1年間できることはやりきった成川さんは「これ以上受験勉強をする必要はない」と率直に感じたという。一緒にいた母親に一言、「北大行くわ」と告げた。その年の文学部後期試験の主席合格者だと知るのはまた後の話。
北の大地の1年生 ―プライドと苦悩―
見下しているように聞こえるかもしれないが。「何で自分より何倍も勉強してないやつがこんなにおるんや」1年生の授業で同級生と話す中で、率直にそう思ったという。「入ってしまえば、みな同じ」とは言いつつも、受験生それぞれの志望大学の入試難易度に差がある以上、入学時点で「学力」にある程度差があるのも事実だ。
京大に向けて1日14時間も受験勉強をしてきた結果が、自分より勉強をしていない人と“同じ”大学の“同じ”学部。高校では、興味のあることについて幅広く議論したり、知識を共有したりする同級生がたくさんいた。4年間を過ごすのは、心から“すごい”と感じ、尊敬できるような学生がすぐに見つからないかもしれない大学。新しい仲間から、時に攻撃的で「鋭い」返答をする「怖い人」だと見られることも多かった。
高校の同級生達は希望の大学に進んでいるという事実も成川さんを苦しめた。一流の学歴を持つ人間に当然なれると信じていたものが裏切られる。受験勉強への身を削るほどの自分の努力が目に見える形で評価されないのではないかという不安が成川さんを襲った。
「こんな場所早く出てやろう」そう思い、友達はいなくてもいいからせめて京大の大学院に早く行きたいと考え、大学院試験で有利になるようひたすら勉強をつづけた。さらに、後期文学部の主席としてどんな文学部生よりも一番勉強ができる人間でいなければと自分を追い込んだ。そんな成川さんにある“転機”が訪れる。
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