【受験特集:どんな道でも、道は道】第2回(4) 高2で中退も進学あきらめず、高卒認定試験を経て北大へ 金井舜平さん(教育学部2年)

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「大学には、いろんな人がいる」そんな言葉は、誰しも一度は耳にしたことがあるだろう。だが、私たちはまだ「いろんな北大生」が北大生になった時の話を知らない。聞けそうで聞けない、在りし日のそんな話を取り上げるのが今回の特集「どんな道でも、道は道」だ。はたから見れば小さな、でもそばにいれば大きな選択にじっと耳を傾ければ、等身大の北大生が見えてくる。

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第2回の主人公は教育学部2年の金井舜平さん(20)だ。多くの受験生が勉強に本腰を入れ始める高校2年生の冬、金井さんは通っていた高校を中退した。「高校を辞めて色々なものを失った。取り返せるのは大学進学だけ」。決意を胸に、高卒認定試験を受験し北大に合格した金井さん。その経歴に記者が迫った。(取材:佐藤)

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「取り返せるのは大学進学だけ」高卒認定試験を経て北大受験へ

高校中退後の金井さん(本人提供)

「意外と嫌な気分じゃなかった。高校に行っていたときは3年生になれないかもしれない、とか色々な不安がずっとあったから。『ああ、辞めてしまった』というよりは、肩の荷が下りて気が楽になったような感じがした」

中退したが、大学には行きたいと考えていた。

「学校に行けなくなって成績も下がり、中退して高校3年生の青春も失った。唯一取り返せるのは大学進学だけ」

しかし、大学入試を受けるためには高卒資格が必要となる。そこで目を付けたのが高等学校卒業程度認定試験(高卒認定試験)だった。16歳以上ならだれでも受けることができ、合格すれば高校卒業と同等以上の学力があるとみなされ、大学の入学試験などを受けられるようになる。

「通信制高校を卒業するという方法もあったけど、自分の場合は大学に進学したいと思っていたし、高卒認定試験を受ける方が時間を自由に使えると思った」

高校在学中から中退後の進路を調べていた母と相談し、高卒認定試験を経て大学受験をする人を支援する予備校に入った。高校時代から受けていたカウンセリングに興味を持つようになっていたため、文転して、臨床心理学を学ぶことのできる京都大学の総合人間学部と北海道大学の教育学部を目指すことにした。

勉強は抜けていた知識を埋めるところから始まった。家で参考書や高校の教科書を使い、高校で授業を受けていなかった分や新たに取り組み始めた文系科目の勉強をした。ときどき名古屋にある予備校に通って授業を受けた。

「今思えばすごいやっていた」。1日のほとんどを勉強に費やした。とはいえ「ずっとやっていたら疲れてしまう」。ときどき息抜きの日を作り、好きな映画を見たり、銭湯に行ったりした。

「高卒認定試験を受けて大学に行くという見通しはあったけど、本当にやれるのか。これからどうなっていくのだろうという不安はずっとあった」

「低い偏差値が出ると、相当取り乱していた。高校を卒業するという既定路線をすでに外れていたから、悪い結果が出るたびに『俺もう人生だめだ』と思い込んでしまう」

焦っていた。模試の偏差値は40~50ほどで、判定はEばかり。でもあきらめなかった。8月までは基礎固めに集中し、9月からは浪人生用の予備校にも通って本格的な受験対策に取り組み始める。

「浪人生向けの授業は色々なことを知っている前提で授業が進むので、最初はついていくのが精いっぱいだった」

「大変だったけど、中退で失ったものの中で取り返せるのは大学進学のみだ、という気持ちだけで勉強した。もうきつい、やってられない、とはならなかった」

知識の穴を埋めながら予備校で入試問題演習をする毎日。模試の偏差値は60~65ほどまで上がり、E以外の判定が出るようになる。9月には高卒認定試験を受験し無事に合格。大学入試の受験資格も手に入れた。

成績は順調に伸びていったが、数学が足を引っ張った。迎えた共通テストでは、数学は5割。しかし、社会・理科で8割、国語・英語で9割をとるなど他の教科でカバーし、全体では8割をとった。共通テスト利用で私立大学に出願し、最初の合格を勝ち取る。

京大の総合人間学部と北大の教育学部はともに2次試験で数学が必須だったため、北大の総合入試文系を受けることにした。学部を選択せずに入学し2年時に学部を決められる制度で、2次試験で数学の代わりに社会を使って受験することができる。

「2次試験は、国語・英語は割と落ち着いて解けたけど、最後の世界史でてんぱってしまった。最後の科目ができなかったから、全部できていないような気がして『駄目かもしれない』と思っていた」

しかし、不安なまま迎えた合格発表当日、インターネットの画面には金井さんの受験番号がしっかりと映っていた。

「合格発表当日は10時半になるまでパソコンを開いて待っていた。時間になって、番号を探したらあった。どちらかというと安堵。よかった。首の皮がつなかがった」

「高校を辞めたときは、一般的に言われている普通のレールから外れてしまい、自分がおかしいものになってしまったような感じがした。それが北大の入学を許されたことによって、『普通になれた』というような感覚があった」

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