【受験特集:どんな道でも、道は道】第1回(4) 進学か就職か、出した答えは「北大へ」 野中直樹さん(理学部3年)
「大学には、いろんな人がいる」そんな言葉は、誰しも一度は耳にしたことがあるだろう。だが、私たちはまだ「いろんな北大生」が北大生になった時の話を知らない。聞けそうで聞けない、在りし日のそんな話を取り上げるのが今回の特集「どんな道でも、道は道」だ。はたから見れば小さな、でもそばにいれば大きな選択にじっと耳を傾ければ、等身大の北大生が見えてくる。
「どんな道でも、道は道」第1回の主人公は、北大新聞の代表を2022年9月まで務めた理学部3年の野中直樹さん(23)=神奈川・県立厚木東高校卒業=だ。高校卒業後に就職した会社を辞めた後北大に来た、と語る「野中先輩」の過去は実は記者もよく知らなかったのだが、その体験は本特集の記念すべき初回を飾るにふさわしい。ゼロからはじめた逆転劇に、記者が迫った。(取材:田村)

受験勉強は、今年で終わりに
野中さんの勉強時間は、毎日のように10時間に達するようになった。「スマホは持ってなかったから、友達からは行方不明扱いされてたらしい」と語る野中さんの気分転換は、好意を寄せていたあの元同級生との長電話だったという。一足先に志望校に合格した彼女とは「2時間くらいずっとしゃべってた」。
「家の電話を占拠してたから親に見つからなかったわけはないと思うけど、多分黙って見守ってくれてたんだろうね」
「取りこぼしがないように」と夏まで時間をかけてじっくりと入試の基礎を固め、2019年の秋にはついに過去問演習に突入した。模試は秋にマークシート式の模試と本学の志望者に向けた模試を受験しただけで、それ以外には全く受けなかったという。
「センター利用で併願はする予定だったけど、個別試験を受けるのは北大だけ。北大の過去問で点数がとれることが全てだと思って、過去問の得点率を基準に実力の伸びを確認した」
「冠模試は、弱点把握のために受けた。判定はEだったけど、本番で合格最低点を超えるためにやることはちゃんと分かってたから全然気にしてない」
とはいえ、野中さんの受験勉強は記者の想像以上に過酷なものだった。体重は、10キロ以上落ちた。白髪は、一気に増えた。「親からは、なんか『老けたな』って言われた」と野中さん。
「長時間の勉強に体が慣れなかったってのもあるけど、やっぱり落ちた時の不安が大きかったな。高卒で再就職、完全に逆戻りでしょ」
それでも、ひたすらに勉強を続けた。机での勉強に疲れたら、弟や妹と共用のパソコンを使って教育系ユーチューバーの動画を見た。英作文の能力を上げるために、海外の友達と英語で文通を始めた。
迎えた最後のセンター試験では大きく崩れることもなく実力を出し切り、個別試験を受けずに有名私立大学の夜間部に合格することが事実上確定した。
「働きながら大学にってことにはなるけど、北大に落ちても大学生になるって決まってだいぶ気分が楽になった」
「落ちたら併願校に行く、受験勉強は今年で終わりに」と臨んだ本学の二次試験でも、過度に気負うことなく実力を発揮した。「それこそ『下見』もあったわけだし、想定外の事態は何もなかった」と野中さん。
そして、ついに迎えた合格発表の瞬間。パソコンで自分の受験番号を見つけた時、喜んだのは野中さんだけではなかった。父親が、喜んでくれた。何度も電話した友達が、喜んでくれた。
大学に行く、と決意してから1年半。「勉強の勉強」に始まり「勉強」で締めた受験生活は、合格最低点を30点近く上回った本学入試の合格通知を残して達成感に満ちた結末とともに幕を下ろした。