北大総長アイヌ遺骨収集を謝罪——150年の歴史で初
北大の宝金清博総長は7月27日、北大医学部によるアイヌの遺骨収集問題をめぐり記者会見を行い、「アイヌの人々の尊厳を深く傷つけた」として初めて公式に謝罪した。また8月3日には総長や副学長らが北海道アイヌ協会の会合に出席し、先住民族の権利拡充に努めることを約束した。
今回の会見は、医学部の研究に関する3冊目の調査報告書の完成に合わせて行われたもので、大学トップが正式に謝罪の言葉を口にしたのは、遺骨収集が始まって以来100年近い年月の中で初めてである。
調査報告書では、当時の研究が「特定の民族を身体的・精神的に劣っていると決めつけようとする姿勢」を前提としていたことを指摘し、アイヌの人々への倫理的配慮や尊重の姿勢を欠いていたと認めた。
北大医学部が遺骨収集を開始したのは1931年。解剖学第一講座の山崎春雄元教授が人類学研究のために始め、1933年以降は同じく医学部の児玉作左衛門元教授も収集を行っている。収集は、両教授の退官後も1972年まで続けられた。当時東京大や京都大も収集を行ったが、規模の観点から見れば北大が最大であり、中でも児玉元教授は約500体もの遺骨を収集したとされる。2019年に文部科学省が発表した「大学等におけるアイヌの人々の遺骨の保管状況の再調査結果」により、国内の大学が集めた遺骨のうち実に6割超を北大が占めていたことも明らかになっている。
こうした遺骨は1980年以降にアイヌに関係する人々によって返還請求がなされ、当初は拒絶していた北大も対応を迫られることとなった。北大は1984年に「北大アイヌ納骨堂」を建立し毎年慰霊祭(イチャルパ)を行うほか、遺骨の一部については返還を進めてきた。また2019年には返還請求のない遺骨が白老町の民族共生象徴空間(ウポポイ)に集約された。こうした対応の間、2005年に中村総長(当時)、2019年に笠原総長職務代理(当時)がそれぞれ「反省」を表明したが、「謝罪」の言葉はなかった。
だが2019年に札幌医科大、2025年10月に東京大が先住民族の遺骨収集を初めて謝罪。北大に次いで多数の遺骨を保管していた2大学が謝罪に踏み切ったことで、潮目が変わったと見られる。北大は今年3月にも「先住民族に対する敬意の表明」を日本語・アイヌ語・英語で公表し銘板を札幌キャンパス内に設置していたが、「敬意では不十分」とする指摘が相次いだ。さらに創基150周年を控えるなか、市民団体や約100人の教職員が謝罪を求める声を強めてきた。こうした学内外の要請の積み重ねが今回の総長声明を後押しし、これまでの「反省」表明とは一線を画す「お詫び」の言葉に繋がった可能性がある。
謝罪の明言を避けてきた北大が動いたことで、遺骨問題は新たな段階に入ると見られる。アイヌ関連団体からも、今回の謝罪を好意的に受け取る声が上がる一方で、遺骨返還請求が始まって半世紀近く謝罪が行われなかった点を批判する声も多い。
また今後の展望も不透明だ。北大は、アイヌの団体が呼びかける「真実委員会」への参加を見送っている。国の返還ガイドラインに沿って対応するためであり、東京大や京都大も同様の立場をとっているが、ガイドライン自体の実効性には疑問も残る。
さらに、学術的研究に対する再検証も求められるだろう。例えば1980年にアイヌの海馬沢博(かいばざわひろし)氏が遺骨返還を請求した書簡に対して、当時の医学部は「故児玉教授の研究活動に違法な点はなかつた」という返答を行って、返還を拒否した。
だがこれは、アイヌの墳墓を「現在は墳墓の役割を果たしていない遺跡」として扱うことで刑法の適用外としたことに加え、北海道警察の取り調べを受けた児玉元教授が道と交渉し「土地の管理者の承諾」であれば良いことにしたに過ぎない。報告書ではこうした点に関して「現代の学術倫理の観点からは課題を指摘せざるを得ない実験、あるいは、特定の疾患や知能に関する先入観に基づく調査が見られ」たと表現するに留まり、適法行為か否か法的検証の不十分さには言及がなかった。今回の謝罪はアイヌの人々の尊厳を傷つけたことや遺骨収集の非倫理性を認めるものではあるが、墓地を暴き遺骨を持ち去った行為について当時の違法性を認めたものではない。大学研究の権威を後ろ盾に適法とは言い難い行為が行われる事態はどの時代でも懸念すべきであり、今後はそうした広範な視点からも、遺骨収集問題と向き合い続けていく必要があるだろう。
そして大学教育においても、この謝罪を幕引きとしない努力が求められる。北大が2023年度から始めた導入科目「北大での学び」においても、これまで同様に北大とアイヌの関係性・歴史に言及しつつ、単なる歴史上の問題ではなく現在進行形で向き合うべき問題として説明がなされるべきである。学生側も「なぜ謝罪が大きな変化と見なされるのか」という小さな疑問を発端に、問題の全容に深い関心を持つことが求められている。
150年の歴史を刻む北大が積み上げてきたのは、輝かしい業績だけではない。なお解決を見ない現在進行形の課題に対し、大学構成員として、研究者として、大学として行うことは数多く残されたままだ。
※宝金総長の宝は正しくは旧字体
(取材・執筆:古谷)
